AMO情報

AMOアップデートの総括と今後の課題

はじめに

今回のAMOアップデートの総括と今後の課題について私なりにまとめてみます。
少々長いですがお付き合いください。

アップデート時の紆余曲折

AMOのアップデート時には紆余曲折があり、状況が二転三転しました。
以下に時系列に沿ってまとめてみます(日時は全てPST)。

2006年11月29日
初めて具体的な日付を示したスケジュールが明示される。
アナウンス(ユーザやアドオン開発者に向けたmozilla.comやAMOのトップページ、
Mozilla Webdev、メールでの告知。以下同じ)は無し。
  • 2006年12月5日:ローカライズに向けた準備が完了
  • 2006年12月18日:アルファリリース
  • 2007年12月15日:ベータリリース
2006年12月6日
ローカライズに向けた準備は完了せず。
2007年1月2日
アルファ版リリース。
Mozilla Webdev開設。AMO開発者チーム初の公式ブログ。
2007年2月8日
ベータ版リリース。
2007年2月12日
正式版のリリースを本日午後7〜11時としていたらしいが、アナウンスは無し。
また、テスト環境と本番環境の差異によるトラブルのため、その予定が24時間遅れるとアナウンス。
2007年2月13日
正式版リリース予定日だがリリースされず。アナウンスは無し。
2007年2月14日
予期せぬトラブル(キャッシュサーバ?)のため、正式版のリリースが月曜(19日)にずれ込むとアナウンス。
2007年2月15日
移行作業。
2007年2月18日
正式版のリリースが今週中に変更とアナウンス。
2007年2月22日
morgamicが金曜に書いたように(?)正式版のリリースが未定となるとアナウンス。
移行作業。
2007年3月5日
新たなリリーススケジュールがアナウンス。
  • 2007年3月5日:データベース移行
  • 2007年3月5〜12日:コミュニティ向けテスト
  • 2007年3月12〜15日:最終バグ修正
  • 2007年3月15日:正式版リリース
2007年3月14日
Firefox新版のリリースと重なるため、正式版のリリースが19日にずれ込むとアナウンス。
2007年3月15日
正式版のリリースが22日にずれ込むとアナウンス。
2007年3月22日
正式版がリリースされるも、トラブルのため旧バージョンに戻される。
2007年3月25日
再度、正式版がリリースされるが事前アナウンスは無し。
2007年3月27日
Mozilla CorporationからAMOリニューアルのアナウンス。事実上の正式版リリース完了宣言。

上記以外にもサンドボックスに関する紆余曲折があり、
それについてはRemora 続報 Firefox Hacks 翻訳日記を参照してください。

AMOが抱える問題点

何故AMOをアップデートする必要があったのか?
それを理解するには、現在のAMOが抱えている問題点を把握しておく必要があります。
主な問題点は、以下の4つです。

拡張機能の品質
Firefox 1.5がリリースされた時にAdblockのメモリリークがFirefox本体のメモリリークだと疑われたこと
がありました。このようなことから、拡張機能が原因で発生した不具合のせいで
Firefox自体の評判も落ちてしまうというのではという懸念が出てきました。
便利だというだけでなく、拡張機能を「品質」という面から誰がどのように
評価すれば良いのか、という課題がありました。
個人情報とスパイウェア
Firefoxの人気が高まるにつれ、Conduitツールバーのようなスパイウェアが登場するようになりました。
ユーザの同意無しに個人情報を盗み取るのは論外ですが、Googleツールバーなど
便利な拡張機能の中には、Webページの閲覧履歴などを利用するものもあります。
AMOのユーザの中には、「例えそのようなことが拡張機能のプライバシーポリシーで
明示されていたとしても、自分はいかなる個人情報も知られたくない。AMOがそういった
拡張機能を掲載するのはいかがなものか。」と言う人もいれば、
「プライバシー漏洩のリスクがあったとしても、自分は便利だからこの拡張機能を
使っているんだ。だからAMOから削除するな。」と言うユーザもいます。
「スパイウェアとは何か?」という定義は、ユーザの見方によって変わってきます。
そうした様々なユーザがいる中で、どのように折り合いをつけていくのか、という課題がありました。
著作権やライセンス
主にテーマに多いのですが、無断で画像を転用するなど、著作権を侵害していると
思われるアドオンが幾つかありました(Bug 368664Bug 376207)。
アドオンのタイトルに固有名詞を含む場合は、商標の侵害になる可能性もあります。
また、エンドユーザーのライセンス(EULA)やソースコードのライセンスを
明示する手段がありませんでした(商標とライセンス - Torisugari の日記)。
これまでAMOでの規定が曖昧だったため、こういったことに対する対応が急がれていました。
レビュアーの不足
AMOv2では、Firefoxの新版がリリースされる時など、多い時で200を超えるアドオンの
承認申請がキューに溜まることがありました。AMOv2でレビュアーの権限を持った人は
100人ほどいましたが、その中でアクティブに活動していたのは、極僅かでした。
先日のv2からv3への移行時では、実際にレビューを行ったのは私を含めて26人しかいませんでした
これだけの人数で2000を超えるアドオンのレビュー全てをこなしていくのは、相当の負担です。
レビューシステムの根本的な改善が必要でした。

解決策としての「サンドボックス」と「ポリシー」

これらの問題点をどのようにして解決するのか?
その答えとして新しく導入されたのが、「サンドボックス」と「ポリシー」です。
AMOの問題点を踏まえれば、これら2つの文書で語られていることが理解できると思います。

AMOが目指しているのは、一言で言えば「誰もが安心して使えるAMO」です。
もし私が「その目標のため、AMOの問題点を解決するにはどうすれば良いか?」と
問われたとしたら、恐らくAMO開発者チームが出した答えと同じようなものになると思います。
現状でこれ以上の良い解決策を私は思いつきません。

AMO開発者チームに望むこと

今回のAMOアップデートでは、AMO開発者チームは素晴らしい仕事を成し遂げました。
それには素直に感謝と敬意を表します。

しかしながら、残念だった点も多くありました。一言で言えば、マネージメント力の不足です。

事前の告知無しに行われることが多く、事前に計画されていたことも計画通りに
行われないことが殆どでした。Firefox新版リリースとのバッティングを避けるための
AMOリリースの延期などは、Mozilla内部での情報交換で事前に回避できたのでは
ないでしょうか。また、AMOのサーバ負荷やトラフィックなどの情報は、ITチームと
連携がきちんと取れていれば把握できたはずです。

また、AMO開発者チームからの情報公開が十分に行われなかったことも非常に残念です。
事前の告知無しに行われればユーザは混乱しますし、十分な情報が公開されなければ
ユーザから質の良いフィードバックは得られません。AMOv3公開プレビューに関しても、
AMOのトップページに告知を載せたり、アドオン開発者宛にメールを送って
ベータテストの協力を求めるなど、情報公開や告知の仕方についても、
もっと幅広く行える方法があったはずです。

それから、ドキュメントの整備が後回しにされ、機能実装だけが優先される状況も
改善されるべきです。Firefox初心者がAMOを利用することを想定して、
「AMOとは何か?」などのFAQやアドオンのインストール手順をスクリーンショット付きで
解説したヘルプを用意するくらいのことはして欲しいところです。

AMO開発者チームの技術力は、決して低くないと思うのですが、マネージメント力の不足が
足を引っ張って技術力を十分に発揮できていないように思われます。
情報公開と告知を十分に行う体制、ユーザからのフィードバックを十分に得られる体制を望みます。

AMOユーザに望むこと

AMO開発者チームに積極的にフィードバックをしてあげてください。

あまり知られていないことかもしれませんが、AMOもFirefoxなどと同じ
Mozillaプロジェクトの1つです。オープンソースで開発が進められ、様々な形で
ユーザが開発に参加できます。Bugzillaにバグを登録したり、IRCで意見を述べたり、
Mozilla Wikiに情報を書きこんだり、AMO開発者チームのブログにコメントを残したり
することで、AMO開発者チームにフィードバックできます。AMOv3公開プレビューに関しても、
積極的にフィードバックを行っていたユーザはある程度いましたが、もっと多くの
ユーザがベータテストに参加して十分なフィードバックが得られていたなら、
サンドボックスにまつわる混乱も回避できていたかもしれません。

Firefox本体の機能や拡張機能の開発に関しては、ニュースサイトやブログで話題にされたり、
Mozilla Japanのセミナーや講演で取り上げられることが多いのですが、AMO自体に関しては、
これまでそれほど注目されることがありませんでした。AMOは、多数のエンドユーザが
利用するウェブサービスを構築し運用するプロジェクトです。過去にこれほどの規模の
ウェブサービスをオープンソースのプロジェクトが構築し運用したことは無かったと思います。
オープンソースのプロジェクトでは、ユーザからのフィードバックが命です。
もっと多くのユーザがAMOについて関心を持ってくれることを望みます。

更新履歴

2007/4/22
  • 一部加筆修正。
2007/4/21
  • 初版作成。

Presented by INOUE Naoto.
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